大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和54年(わ)1255号 判決

本店所在地

大阪府高槻市大畑町一二番一五号

法人の名称

大阪産業株式会社

代表者

代表取締役高橋こと 高橋達雄

本籍

大阪市北区梅田一丁目八番地

住居

大阪府豊中市東寺内町一一-二三番地東グランドマンション五〇六号

会社役員

高橋達雄

昭和三年一〇月一九日生

右両名に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官鞍元健伸出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

一、被告人大阪産業株式会社を罰金二八〇万円に、被告人高橋達雄を懲役四月に、各処する。

一、被告人高橋達雄に対し、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

一、訴訟費用は、被告人大阪産業株式会社及び被告人高橋達雄の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人大阪産業株式会社(以下「被告会社」という。)は、大阪府高槻市大畑町一二番一五号に本店を置き、風俗営業等を目的とする資本金三五〇万円の株式会社であり、被告人高橋達雄は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人高橋は、その妻高橋カイと共謀のうえ、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一、昭和五〇年二月一日から同五一年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際総所得金額が一七七九万三九六六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五一年三月二九日、大阪府茨木市上中条一丁目九番二一号所在の所轄茨木税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が欠損の三二二二万八四九六円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六二七万七二〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五一年二月一日から同五二年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九二四万三五九七円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五二年三月三〇日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が欠損の一八九二万四二六〇円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二八五万七二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述

一、公判調書(第一一回ないし第一五回)中の被告人の供述記載部分

一、被告人の検察官に対する各供述調書五通

一、収税官吏の被告人に対する質問てん末書一一通

一、公判調書中の証人井上明彦(第六回)、同鈴木高行(第七回)、同小谷道雄(第八回)、同和田勇(第一三回)、同新田裕夫(第一六、一七回)、同奥野一義(第一八回)、同林石肇(第一八回)、同岡村孝則(第二〇回)の各供述記載部分

一、大阪地方裁判所第一二刑事部四係の被告人有限会社徳島商事他一名に対する法人税違反事件の第一五、一七、一八回各公判調書抄本

一、右被告事件の証人水田京子に対する証人尋問調書抄本

一、奥野一義、井垣幸文、高橋カイの検察官に対する各供述調書

一、奥野一義(第六、一二、一三項のみ)、高橋カイ(第四項のみ)の検察官に対する供述調書謄本

一、収税官吏の神崎勇三、上山正光、奥野一義、仲西正男、和田勇、真継忠、確井春栄、高橋カイ、安田満雄、前川菊雄、(二通)森實に対する各質問てん末書

一、収税官吏の篠原武次、宮崎英雄(第二ないし第四、第八ないし第一二問答のみ)、高橋カイ(四通、昭和五二年一一月一四日付けは、第四、第六ないし第八問答のみ同年一二月一二日付けは、第四、五問答のみ、同五三年四月四日付けは、第一三、一四問答のみ、同月七日付けは、第二ないし第四問答のみ)に対する各質問てん末書謄本

一、尼崎浪連信用金庫梅田支店長山本昭、同支店次長小野克己、被告人高橋達雄各作成の「確認書」と題する書面

一、株式会社新陽電気商会、岡村機械株式会社各作成の照会回答書

一、収税官吏作成の現金預金有価証券等現在高検査てん末書二通

一、検察事務官作成の「被疑者高橋達雄の簿外経費の主張について」と題する書面

一、株式会社ワカバヤシ作成の「証明書」と題する書面

一、収税官吏作成の査察官調査書一三通

一、被告会社作成の法人税確定申告書謄本二通

一、大阪法務局高槻出張所登記官作成の法人登記簿謄本

一、押収してあるホステス支払関係書類一綴(昭和五五年押第五五二号の一)、同領収書および請求書等二綴(同押号の二、四)、同昭和五一年度火星分領収書等一綴(同押号の三)同請求書および領収書等二綴(同押号の五九)、同領収書等二綴(同押号の六、八)、同雑書一綴(同押号の七、同領収証控二綴(同押号の一〇)、同請求書一綴(同押号の一一)、同岡義建設会社関係書類一綴(同押号の一二)、同ビル改築工事損害明細書一綴(同押号の一三)、同昭和五二年一月期総勘定元帳一綴(同押号の一四)

(弁護人らの主張に対する判断)

弁護人、被告人らの争う勘定科目についての当裁判所の判断の要旨は、以下のとおりである。

一、売上高について

弁護人は、昭和五一年二月一日から同五二年一月三一日までの事業年度(以下二期という。)における売上について、二二一一万七五〇〇円と主張するが、右売上高の推計方法としては、ビールの売上高を基礎としており、この点は、検察官主張の計算方法と招待券分の扱いを除いては、大旨同様であるが、検察官は、二期におけるビールの破損率を昭和五〇年二月一日から同五一年一月三一日までの事業年度(以下一期という。)と同一の一・七パーセントとするのに対し、弁護人は、二・二パーセントとすべきであると主張するので、以下検討する。

弁護人の右主張に副う証拠としては、第一三回公判調書中の被告人高橋達雄の供述記載部分が存するが、その内容は、ビールを大量に仕入れて在庫量が多かったこと、保管場所を二〇か所も三〇か所も変えており、例年よりも三割以上は破損、盗難が多く、最低二・二パーセントの破損率であったというものである。しかし第一回公判調書中の検察官の質問に対しては、保管場所は、五、六回変わってると思うと述べており、公判廷における供述自体に変遷が認められる。更に、収税官吏の被告人高橋達雄に対する昭和五三年三月一日付質問てん末書においては、昭和五一年二月トルコ新築時に営業部員全員で四階からビールを大量に移動させたこと、破損分、無料分は、月一〇〇本程度であると述べていること等に照らすと、被告人高橋達雄の供述は、三転しており、その供述の変遷の理由については何等説明がなされていないことに鑑みると、その場しのぎの供述というべく、その供述の信用性は極めて乏しいものと考える。従って、他に二期におけるビールの破損率についての証拠の存しない以上、二期におけるビールの破損率も他の期と同様と推認されるので、一期におけるビールの破損率一・七パーセントで二期については推計計算すべきものと考える。

ビールの破損率一・七パーセントを基礎として弁護人主張の計算方法で算出をした売上高は、検察官主張の額よりも高額となり、被告人に不利益であるので検察官主張の計算方法で算定するのを相当と考える。(なお、ビールの破損率を二・二パーセントとすると二期の期首におけるビールの在庫量は増加するので(収税官吏作成の査察官調査書(証拠等関係カード検察官請求番号・14)弁護人主張の計算式そのものが正確とはいえない。)

よって、弁護人の右主張は採用しない。

公判調書中の証人井上明彦(第六回)同鈴木高行(第七回)、同小谷道雄(第八回)の各供述記載部分、収税官吏の神崎勇三に対する質問てん末書、押収してあるホステス支払関係書類一綴(昭和五五年第五五二号の一)、収税官吏作成の査察官調査書三通(前記番号11 14 31)によれば、一期における売上高は五九八一万三五三〇円、二期における売上高は二三九〇万七八八〇円と認められる。

一、仕入について

弁護人は、簿外材料仕入額につき、一期は一〇一万一五五四円、二期は六一万九六四四円を主張する。

公判調書中の証人小谷道雄(第八回)、被告人高橋達雄(第一一、一四回)の、各供述記載部分、押収してある領収書および請求書等二綴(同押号の二、四)、昭和五一年度火星分領収書等一綴(同押号の三)によれば、以下の事実が認められる。

すなわち、被告会社の材料仕入れは、同社従業員が行なっており、購入の都度領収証を奥野一義に提出し、同人が出費の明細を記入したうえ出金伝票を作成していたこと、前記各証拠物中には、被告会社、徳島商事、被告人高橋達雄ら個人に関するもの、更には同人に関するものか不明の伝票類が混在していること、出金伝票のない領収証等については、被告会社に関するものかは必ずしも明らかでないこと、検察官が主張し、弁護人、被告人らもこれを認めている一期七二万四一三九円、二期四三万八〇五六円については、前記昭和五一年度火星分領収書等一綴(同押号の三)より抽出した材料費の総額四三万八〇五六円を二期分として認定し、一期分は、二期の簿外材料仕入割合で推定計算をしたものであり、二期分の四三万八〇五六円についてもその出費の個別的、具体的内容は明らかでないことが認められる。

右事実よりすれば、前掲各証拠物中、少くとも被告会社徳島商事、被告人高橋達雄個人(以下、被告会社らという)に関しての簿外材料仕入と認められる分のうち、最大限に見積っても、そのうちの五〇パーセントを被告会社に関する出捐と認定するのが相当である。

前記昭和五一年度火星分領収書等一綴(同押号の三)中から認定される被告会社らの簿外材料仕入額は、弁護人主張の一〇万二二五七円を含めても四三万八〇五六円の倍額である八七万六一一二円以下であることは明らかであるが、被告人高橋達雄自身、右四三万八〇五六円については自ら認めていること(同被告人の昭和五四年三月二一日付検察官に対する供述調書参照)、検察官も同額を主張していることをも勘案し、被告会社の簿外材料仕入れとして四三万八〇五六円を認定する。

前記領収書および請求書等一綴(同押号の二)に関しては、各伝票の用紙体裁、記載内容等に鑑み、岡野商店に関する一万八四五〇円を被告会社らの簿外材料仕入れと認定し、弁護人主張のその余については、(なお、北村伝作に関しては、前記昭和五一年度火星分領収書等一綴(同押号の三)中の同人作成名義の伝票との比較考量をも斟酌し)いずれも被告会社らの簿外材料仕入れとは認定しない。前記領収書および請求書等一綴(同押号の四)に関しては、各伝票の用紙、体裁、記載内容等に照らし、成和水産に関する五五九〇円、水岡に関する七〇〇〇円、カネ留商店に関する五〇五〇円、播孫商店に関する五五一〇円、天理に関する三三三円、七四〇円、八六六円、五二五円、二〇〇円、二四〇円、二九五円の合計二万六三四九円を被告会社らの簿外材料仕入れと認定し、弁護人主張のその余については、(なお、〈ト〉商店に関する七七五〇円、四八〇〇円については、前記昭和五一年度火星分領収書等一綴(同押号の三)中に同一のものと考えられる伝票が存在していることをも考慮し)、被告会社らの簿外材料仕入れとは認めない。

以上、認定したところから、一万八四五〇円と二万六三四九円を合算した金額の五〇パーセントである二万二四〇〇円に四三万八〇五六を加算した四六万四五六円を被告会社の二期における簿外材料仕入れと認定する。

第八回公判調書中の証人小谷道雄の供述記載部分末尾添付の同人作成の昭和五四年三月二二日付査察官調査書により、計算すると簿外材料仕入割合は、一二・四パーセントとなる。

〈省略〉

この割合で一期における簿外材料仕入れを推計すると七五万一七三七円となる。

〈省略〉

よって、七五万一七三七円を一期における簿外材料仕入れと認定する。

三、社交係報酬について

弁護人は、一期における社交係報酬について、一五〇万円であると主張するが、被告人の検察官に対する昭和五四年三月二一日付供述調書、前記小谷道雄の供述記載部分によると、新入店のホステスに支給する入店祝金は、入店一ケ月後実働日数が二五日以上のホステスに対し月一回一万円を支給していたこと、二五日未満の者に対しても月二〇日以上働いておれば、二ケ月に一回、あるいは三ケ月に二回支給していたこと、再入店者には原則として支給していなかったこと、これらの実情に基づき給料台帳等から基準該当者を選別したこと、その結果、一期における入店祝金の推計額は九二万円となったこと、しかし乍ら、右の選別に際しては基準に充たない者もかなりの数が拾いあげられていること等が認められる。

弁護人らは、いく人かの選別もれを主張するが、右の選別を厳格に行なえば弁護人ら主張の選別もれを加算しても一期については、九二万円に及ばないことは明らかであるので、一期における入店祝金は、九二万円と認定する。

紹介料については争いがなく、別掲各証拠によれば一期については三五万円と認められるので、一期における社交係報酬は一二八万円と認定する。

四、広告宣伝費について

弁護人は、一期における広告宣伝費として日刊観光新聞に対する三〇〇万円を主張するが、収税官吏の前川菊雄(二通)森實に対する質問てん末書によれば、日刊観光新聞社が被告会社より弁護人ら主張の如き広告を依頼された事実の存しないことが明らかに認められるので、これに反する被告人高橋達雄の弁解は措信し難く、弁護人らの右主張は採用しない。

五、接待交際費について

弁護人は、ホステスの引抜きに要した費用の額については争わないが、その勘定科目につき接待交際費ではなく、ホステス引抜き費用とすべきと主張する。

被告人の検察官に対する昭和五四年三月二一日付供述調書、奥野一義の検察官に対する供述調書、収税官吏の上山正光に対する質問てん末書によれば、他店のホステス引抜きのために知人に依頼して渡したり、あるいは自分達が他店へ客として行った際の飲食費用、他店閉店後のホステスを接待した費用、入店を承諾したホステスへの支渡金として出費したものであるが、その出費の明細については明らかでないことが認められる。

右認定事実よりすれば、被告会社の右出費が租税特別措置法六二条に定める事業に関係のある者等に対する接待、きょう応等のために支出する「交際費等」に該当することは明らかである。

六、修繕費について

弁護人は、一期における冷暖房機修繕費として二八〇万円を、二期については、大工和田勇に支払った三三万円を修繕費として主張する。一期に関しては、弁護人、被告人らは、その支払先につき当期は、相互冷機、次いで岡村機械とその主張を変えているが、まず相互冷機については、収税官吏の安田満雄に対する質問てん末書によれば、相互冷機と被告会社との取引は、厨房関係で数千円程度の修理をしたのみで、冷暖房機の修繕をしたことがないことが認められ、これに反する被告人らの弁解は採用しない。

岡村機械については、一応弁護人の主張にそう公判調書中の証人林石肇(第一八回)、同岡村孝則(第二〇回)被告人高橋達雄(第一一回ないし第一五回)の各供述記載部分が存するが、右岡村証言は、証言自体不明確であり、結局右各証拠は、岡村機械株式会社作成の照会回答書、収税官吏の仲西正男に対する質問てん末書に照らすと全く信用できず、かえって被告会社と岡村機械との取引は右照会回答書記載のとおりであって、弁護人ら主張のような取引の存しなかったことが認められ、この点についての被告人らの弁解も採用しない。

大工和田勇に関しては、公判調書中の証人和田勇(第一三回)、被告人高橋達雄(第一一回ないし第一五回)の、各供述記載部分、押収してある領収書および請求書等一綴(前同押号の二)、請求書および領収書等一綴(同押号の九)中の和田勇作成名義の領収書に弁護人らの主張にそう証拠が存するが、以下の理由によりいずれも措信し難い。すなわち、大阪地方裁判所第一二刑事部四係の被告人有限会社他一名に対する法人税法違反被告事件の第一五回公判調書抄本、同抄本に添付されている証拠説明書綴り中の和田勇作成名義の請求書、領収証、押収してある請求書一綴(同押号の一一)に照らすと、前記領収証(同押号の二、九中のもの)は、それ自体作成日付もなく、住所の表示も昭和五二年分の請求書、領収書とは異なり、昭和五〇年分の請求書と同一であること、更に収税官吏の和田勇に対する質問てん末書、収税官吏小谷道雄作成の領置てん末書によれば、昭和五二年三月分を除いては、前記請求書一綴(同押号の一一)が火星分(被告会社あるいは有限会社徳島商事、高橋カイに関するもの)についての全てであったことが認められることを総合考慮すると、弁護人の主張にそう前記各領収証が被告会社の二期に関するものであったとは到底認めることができない。従って、これらの領収証が二期に関するものであったことを前提とする前記和田証言、被告人の供述はいずれも措信し難く、弁護人のこの点に関する主張も採用しない。

七、雑費について、

弁護人は、簿外雑費として検察官主張額以外に一期についてはクリーニング代四万円、二期についてはクリーニング代四万三五〇円、柴田印房への支払い九万五〇〇円を主張する。

奥野一義、井垣幸文、被告人高橋達雄の昭和五四年三月二一日付、各供述調書によれば、検察官が主張する雑費の内訳は、清掃代が一期二四〇万円、二期二〇万円であり、その他に顧問料、神主への謝礼として各期一六八万円と認められる。一期は、合計四〇八万円であり、仮に弁護人主張のクリーニング代四万円を加算しても検察官主張の四二〇万円に満たないが、四二〇万円という金額については、検察官がこれを主張し、被告人も認めていることを勘案し、四二〇万円を一期における簿外雑費として認定する。

二期は、合計一八八万円であり、弁護人主張の額を加算すると二〇一万八五〇円となるので検討するに前記公判調書中の被告人高橋達雄の供述記載部分、押収してある請求書および領収書等一綴(同押号の五)、領収書等一綴(同押号の六)、雑書一綴(同押号の七)により、昭和五一年九月二日の富士クリーニングに対する二万五三七〇円、高須屋クリーニング店に対する九八五〇円(同押号の六中の同店の品物引換書参照)、やなぎ屋クリーニングに対する八八一〇円を認容し、高須屋クリーニング店に対する五一三〇円については、同伝票の体裁、記載内容等に照らし、被告会社の経費としては認定しない。

柴田印刷工房については、押収してある領収書等一綴(同押号の八)中の同社作成の領収証の月日の記載が欠落していること、押収してある昭和五二年一月期総勘定元帳一綴(同押号の一四)によれば、その余の同社に対する出費がいずれも公表計上されていることをあわせ考慮すると、前記領収書等一綴(同押号の八)中の領収証は、同社の正規の領収証とは認められない。

以上より、二期については、一八八万円に四万四〇三〇円を加算した一九二万四〇三〇円となるが、検察官が二〇〇万円を主張し、被告人自身もこれを認めている点をも考慮し、二〇〇万円を二期における簿外雑費として認定する。

八、雑収入について、

弁護人は、友の会関係の二一二万九六〇〇円は預り金であって雑収入ではなく、又損害金一五〇〇万円は架空計上したものであると主張する。

まず、友の会関係については、公判調書中の証人奥野一義(第一八回)、被告人高橋達雄(第一二回)の、各供述記載部分、収税官吏の被告人高橋達雄に対する昭和五三年五月二九日付質問てん末書によると、友の会の会費は被告人高橋達雄自身が管理しており、被告会社とは明確な別勘定とはなっていなかったこと、支出面でも被告会社の持出しがあり、不足分は被告会社の福利厚生費、接待交際費でまかなっていたこと、支出については奥野一義、被告人高橋達雄の指示によりなされていたことが認められる。以上の事実によれば、友の会は被告会社の計理と渾然一体の運用をなされていたものと解され被告会社の預り金ではなく雑収入と認定するのが相当である。

損害金については、被告人高橋達雄は、借入金が多くなったので、手持ちの金を一五〇〇万円入れたものであって、架空計上であると弁解する。しかし乍ら、収税官吏の被告人に対する昭和五二年一一月一六日付、同五三年一月一九日付、同年二月一三日付各質問てん末書から明らかなように、売上げを抜き過ぎたため、公表計理上資金不足となり被告会社の簿外資金を公表化するために三三〇〇万円を借入金として処理したことが認められ、本来この借入金を返済するために損害金を架空計上する必要もなく、又手持資金入金の証拠は被告人高橋達雄の供述以外何ら存しない。してみると、被告人の弁解自体不自然不合理と考えざるをえない。しかも、収税官吏の高橋カイに対する質問てん末書、奥野一義の検察官に対する供述調書、押収してある岡義建設会社関係書類一綴(同押号の一二)ビル改築工事損害明細書一綴(同押号の一三)昭和五二年一月期総勘定元帳一綴(同押号の一四)によれば、岡義請負工事の遅延のため被告会社が四五〇〇万円余の損害を受けたと主張し、施主である高橋カイと岡義との間で紛議が生じ、結局高橋カイと岡義との間で被告会社のこうむった損害をも含めた高橋カイらのこうむった損害金と岡義に対する請負代金の未払金を相殺する和解が成立したこと、被告会社の公表帳簿に損害金として一五〇〇万円計上されており、高橋カイもその旨を了知していたことが認められる。以上の事実によれば、高橋カイと被告会社との間に損害金を一五〇〇万円とする旨の合意がなされ、これに基づき損害金一五〇〇万円を公表計上したものと解するのが相当であり、架空計上ではない。弁護人の右主張は採用しない。

九、リボン材料費について

弁護人は、リボン代購入費八万円七六〇円を簿外経費として主張する。

公判調書中の証人奥野一義(第一八回)、被告人高橋達雄(第一二回)の、各供述記載部分、株式会社ワカバヤシ作成の「証明書」と題する書面によれば、リボン購入費として一期については、四万四七六〇円、二期については、四万円を被告会社が支出したものと認められるので、同額をリボン材料費として認定する。

一〇、受取利息について、

弁護人は、田辺一郎名義の普通預金、工藤信太郎(二口)、阿部秀雄名義の定期預金については、いずれもその帰属を争っている。

まず、定期預金については、公判調書中の被告人高橋達雄(第一一回ないし、第一五回)の供述記載部分によると、いずれも被告会社のものではなく、高橋カイ個人のものと思うと供述し乍ら、同女に未だ確かめていないとも述べており、その供述自体不自然で信用性に乏しい。他方、被告人高橋達雄の検察官に対する昭和五四年三月二〇日付供述調書によると被告会社は、昭和五一年一月末に内田名義のほか、二・三口で三〇〇万円の仮名定期預金があったと述べていること、収税官吏の高橋カイに対する昭和五二年二月一四日付質問てん末書謄本(不同意部分を除く、以下同じ)同女の検察官に対する供述調書謄本、第一六回公判調書中の証人新田裕夫の供述記載部分、収税官吏作成の査察官調査書(前記番号71)を総合すると、工藤、安部名義の定期預金は、いずれも被告会社のものと認められる。

田辺名義の普通預金については、前記各証拠及び大阪地方裁判所第一二刑事部四係の被告人有限会社徳島商事他一名に対する法人税法違反事件の証人水田京子に対する証人尋問調書謄本によれば、同預金口座に被告会社の資金の入出金がなされていたこと、更に高橋カイへの出金も同口座からなされていたことが認められ、被告人高橋達雄の個人預金であるとの弁解は不合理で措信し難い。右事実よりすれば、田辺名義の普通預金も被告会社のものと認められる。

(法令の適用)

被告人高橋達雄の判示所為は、行為時においては、刑法六〇条、昭和五六年法律第五四条脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては、刑法六〇条、改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は、同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人高橋達雄を懲役四月に処し、情状により同法二五条一項によりこの裁判確定の日から二年間、右刑の執行を猶予する。

被告人高橋達雄の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示の各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、以上は、刑法四五条前段の併合罪なので同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金二八〇万円に処する。

訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、被告会社及び被告人高橋達雄の連帯負担とする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 金山薫)

別紙(一)

修正損益計算書

自 昭和50年2月1日

至 昭和51年1月31日

〈省略〉

別表(二)

税額計算書

自 昭和50年2月1日

至 昭和51年1月31日

〈省略〉

別紙(三)

修正損益計算書

自 昭和51年2月1日

至 昭和52年1月31日

〈省略〉

別表(四)

税額計算書

大阪産業(株)

自 昭和51年2月1日

至 昭和52年1月31日

〈省略〉

昭和五四年(わ)第一二五五号

更正決定

被告人大阪産業株式会社、同高橋達雄に対する各法人税法違反被告事件につき、昭和五七年九月二八日宣告した判決中に明白な違算を発見したので、当裁判所は、左記の通り更正する。

判示第一の一七七九万三九六六円を一八五一万八一〇五円と、六二七万七二〇〇円を六五六万七二〇〇円と、判示第二の九二四万三五九七円を九五八万六〇八三円と、二八五万七二〇〇円を二九九万四四〇〇円と、別紙(一)の当期仕入高欄の七、五五七、三七六を六、八三三、二三七と、三一、〇九〇、三五二を三〇、三六六、二一三と、当期所得金額欄の二一、四七二、四七三を二二、一九六、六一二と、一七、七九三、九六六を一八、五一八、一〇五と、別紙(三)の材料仕入高欄の一、八九三、〇三二を一、四五四、九七六と、二一、四二三、三四二を二一、〇〇九、二八六と、未納事業税欄の二、四八七、八〇〇を二、五八三、三七〇と、当期所得金額欄の二三、五〇二、七八四を二三、八四五、二七〇と、九、二四三、五九七を九、五八六、〇八三と、別表(二)、(四)を別表(二)、(四)のとおり各更正する。

昭和五七年一一月三〇日

大阪地方裁判所第一二刑事部四係

裁判官 金山薫

別表(二)

税額計算書

自 昭和50年2月1日

至 昭和51年1月31日

〈省略〉

別紙(四)

税額計算書

大阪産業(株)

自 昭和51年2月1日

至 昭和52年1月31日

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例